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光城の月

第1章 はちみつが甘いから









このうどん売りの生活にもなんとなく慣れてきた5日目のこと。


今日も私たちはいつものように屋台を組み立てて、木の棒(山崎さんに聞いたら拍子木というらしい)を打ち鳴らしながら、前を歩く人たちに声を掛ける。
最近は声を張ることも、隣の山崎さんのお陰か慣れてきた気もする。アンティーク店はこうやって声を張って接客しないから、最初はやっぱり抵抗しかなかったけど。

よし、今日も頑張ってうどんを売りまくるぞ!


なんて心でひとり鼓舞していると、ふわり、いい香りがして思わず私はその香りの主である女性に声を掛けてしまった。

自分でもびっくりした。
山崎さんより先に私が女性に声を掛けるなんて、滅多になかったから。しかも同い年ぐらいの女性には、特に。



───────息がつまった。

私の声に振り返ったその人の顔があまりに既視感があったから。

いや、正確にはちゃんと顔が見えているわけではなく布で顔の半分を覆っていたのだけど、すぐにわかってしまったのだ。
私に顔がそっくりだと──。



「…あ」


自分の口から出たことのないか細い声がしたと思うと、私の腕はその女性に掴まれていた。
着物の袖から覗く白く細い腕からは想像のできない力で掴まれた私の体は、屋台の台を軽々とまたいでその女性の傍にあった。

何がなんだか理解できないまま、その人は驚く私と絶句する屋台の2人のことも然程気に掛けずタッタと軽い足取りで近くの坂を下って行く。
「待って」とも「誰ですか」とも聞こうと思ったのだけれど、なんだか心の奥で”知っている”ような感じがして、私は何も言わずに彼女について行った。








はあはあはあ、
と自分の荒い息づかいか聞こえる中、ついに彼女の足が止まり私は彼女を見定めた。


──────本当に似ている、私に。

芸能人の○○に似てるとかのレベルじゃなく、もはや入れ替わっても誰も気づかないレベルの───。

彼女は警戒するように辺りを見渡したあと、汗ばんだ私の手を取り涼しい顔で言った。



────────「私の身代わりになってくれませんか」と。







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