• テキストサイズ

光城の月

第1章 はちみつが甘いから









そのままじっと私の顔を凝視してくる彼に、困惑しつつも「どうですか…?」と促してみると彼は何かを思い出したようにうどんを一束注文した。

どういう感情で見られたのか、ずっと無表情の青年からは心情が読み取れず困ったが、山崎さんの助けもあって無事にうどんを売ることが出来た。
青年は一言「また来る」と言って屋台を後にした。

結局、売れたのはこの青年を含めて3人だけ。
この町は外れやったかなぁ、そう項垂れる山崎さんを見ながら私と高津さんは苦笑いをしたのだった。








それから根気強く、私たちはこの町はずれの川沿いでうどんを売り歩いていた。
屋台は組み立て式で、(よく出来てるなぁ、あ。舞台セットか)となるが組み立てる時は3人ががりで作業しなければならない、なんとも要領の悪い出来だった。

小屋の近くからは出来るだけ離れたくないということで、この一週間はこの付近で屋台を開くそうだ。

お察しの通りまだここはどこなのか教えてもらえていない。
高津さんがこっそり教えてくれようとしてくれたり、お客さんにこっそり聞いてみようかと試みたが、全部山崎さんに阻止されてしまった。
一体いつまで続くのだろうか…これは。


そういえば、私が初めてうどんを売った青年はあの日から頻繁に屋台に来るようになっていた。
そしていつも私の方にうどんを買いに来る。隣の山崎さんには目もくれることなく。
なので最初は彼に話しかけていた山崎さんも、彼の態度を見て日に日に話しかけることはなくなってしまった。

うどんが売れるので私は助かるのだが、無視された山崎さんの彼を見る剣幕がもの凄いから、そろそろ答えてあげてほしいのだけど。



何日かこの場所で過ごして、気付いたことがある。

ひとつはここが私が住んでいた街の気候によく似ていること、そして山崎さんも高津さんも私のことを余計に詮索しないいい人だってこと。
小屋で生活していても、私の居心地が悪くないような空気感を作ってくれるし、寝る時はどこからか持って来たしきりで隔ててくれたり、服を着替える時は2人そろって小屋を出ていってくれたりね。

初めてあった日、あんな失礼なことを考えてしまって本当に申し訳なくなる。

誤解しちゃってたこと謝りたいな、いつか。






/ 36ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp