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光城の月

第3章 濡れ衣大明神







先ほど静まり返っていた男性二人が一変して、登場した宗次郎くんに言葉を投げ掛けると彼は一瞬ムッと顔をしかめたが、目の前に座っている勝太さんを見るなりスッと表情を引き締める。



「では、参ります」


宗次郎くんの凛とした声が会場に響き渡ると、辺りがしん…と静まり返り一気に彼らの舞台上の雰囲気が作り出された。

ゆっくりとした動きで横一列に整列すると、宗次郎くんをセンターに周りの塾生もキュッと唇を引き締めて誰が合図したか、同時に彼らが一陣の風を薙ぎ払う。
いつしか友だちに誘われて同級生が出る空手の大会を見に行ったことがあったが、そこで見た「型」というものを彷彿とさせるそのパフォーマンスは流石としか言いようがない完璧なものだった。

一斉に構えられる同じ動きは、寸分狂うことなく、田舎道場と揶揄されるには清く澄んだ滑らかな型で、雅楽とはまた違う古き良き伝統芸能をありありと見せつけられる。
(まぁそれは私だけの感覚なんだけども…。)


型を披露し終わると、今度は宗次郎くんとひとりの塾生が互いに向き合い竹刀を向き合わせた。
隣の席の男性二人も「お!」と身を乗り出す。
本命が来たと言わんばかりに露骨に態度を変える彼らを宗次郎くんが呆れた顔で伺った気がしたが、そのまま相手の塾生に視線を構える。

型を披露した後は模擬試合か、どっちが勝つんだろ…と内心私もさっきよりもワクワクしていると、隣のたっちゃんがいきなり立ち上がった。



「ちっくと待ってくれ!」

「……!」


何してるの、と声を掛ける間もなく声を上げたたっちゃんは、今にも相手に踏み込もうとしていた宗次郎くんを見つめている。
宗次郎くんは突然の制止に肩を震わせたが、怪訝な表情でたっちゃんに踵を返す。

隣の男性たちも、他の客人も、塾生も、勝太さんも呆気に取られたようにたっちゃんに視線を移した。
その視線は連れである私にも向けられていて、冷や汗をかきながら俯く。
(えええええたっちゃん何してるの!?なんか大人しいと思ってたけどそういうこと!?ずっと我慢してたの!?でもこのタイミングで言わなくても…)

確かにたっちゃんは私のためにお義母さんと約束を交わした。
────『襲名披露の試合で塾頭から一本とる』


さっきの舞といい彼らの型といい、雰囲気に圧倒されてそのことがすっかり頭から抜けていた…




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