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光城の月

第3章 濡れ衣大明神







みつさんに連れられて会場の中央にたどり着くと、先ほど周りにいた男性たちより幾分か小柄な青年たちが集まっていた。
歳は私と同じくらいだろうか、皆綺麗な顔立ちをしていて特殊な舞台衣装に身を纏っている。

無意識の内に見てしまっていたのだろう、彼らを眺めていた私に「あの人たちは幕臣のお抱え武秀、今日は雅楽を見せてくれるんですって」誰が好み?と腕を引かれるが、特にそういう目で見ていたわけではないので笑って誤魔化す。
そんな私たちに気づいたたっちゃんが、「わしはあの子じゃ」と指をさす。それに「男の子だよ」と告げると目を見開いて驚愕の表情を浮かべたので、おかしくなってみつさんと笑い合った。


そんなこんなで勝太さんの襲名披露が開始され、私は客人としてたっちゃんと並んで客席に座って舞台を見ていた。
少し間をあけた隣の席には、町人らしく額にはちまきを巻いた男性二人がガハハと笑いながら愉快そうに酒を飲んでいる。
(誰かの身内なのかな?)

身内が道場にいるみつさんは、道場の下女さんたちと一緒になってせっせと会場を走り回っていた。どんどん運ばれてくる豪華な料理になんとなく口をつけることもなく、お茶をすすっていると、さっき集まっていたあの青年たちの華やかな舞が始まった。

その舞が始まると、隣の男性二人も酒を煽る手を止めて呆気にとられた様子で眺めている。
たっちゃんは「…本当に男かえ」と箸を止める。
私も同じように手に持っていた湯呑を盆に戻して、ただ流れてゆく琴の音を聞いていた。
テレビで見るアイドルグループのパフォーマンスのようにスポットライトがあたっているわけでもなく、ポップでリズミカルな曲が流れているわけでもないのに…その青年たちの踊り、表情、仕草、全てに女性のような色気を感じざるを得ない。

(──────なんて、綺麗な)

息を呑んだ後、踊りが終わり一番背の高い青年が洗練された動きで一礼して舞台袖にはけていった。


芳醇なワインを飲み干したような(飲んだことないけど)満足感が胸の中を蹂躙して、ますます食事に手がつかない。
この後に控えてるみつさんの弟くんたちもさぞ出にくいだろうな…と思っていると、そんな心配はなんのそのという表情で塾頭である宗次郎くんと数人の塾生が舞台に上がった。



「よッ!負けるな宗次郎!」

「おめえもいい男だぜ!」




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