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光城の月

第3章 濡れ衣大明神









(さっきから何を言ってるんだこの人は…)

こっちは真剣に話をしていたというのに、肝心の彼はそんなことは二の次という感じで話の腰を折ると、息がかかるほどの至近距離でまじまじと私の顔を眺めていた。

どうやら相当変わっている人らしい…。
変質者というのはあながち間違えていないようだ。

あの時何故引き出しを漁っていたのかは上手くかわされて、聞くことは出来なかったし、ますます怪しすぎる。


─────せっかく見つけた私の事情を知っている人が、こんな変わった人だなんて…




「……あの」

「あぁ、オレは色葉トオリ。阿古の主治医」



いつまで見てるつもりですか、と言いたかったのだけど、またこの人に言葉を遮られてしまった。
けれど、そう言えば名前を聞いていなかったと彼の言葉を聞いて思い出す。

(阿古さんの主治医…)
心の中で反芻する。
もしかしたら阿古さんは主治医であるこの人に前々から話していたのだろうか。

……そんな馬鹿な話があってたまるか。
私は突然この世界に来てしまったんだ。私がここにタイムスリップして来る、そんな予測していたなんて、有り得ないでしょ。
というか、彼女はどこか体が悪いのだろうか…



「…色葉さんは」

「ヤダなぁ、その他人行儀。名前で呼んでよ♡」

「………トオリさんは、何で私のことを知っているんですか」



私の鋭い眼光に少し狼狽したトオリさんは、私の顔を凝視するのを止めると今度は考える素振りを見せずに、割かし真面目な表情で元いた位置に戻った。

それから、そっと目線を机の上のカップに移すとその中に指を押し入れてぐるぐるとかきまぜる。



「…歴史の分岐点ってどこだと思う?」



「…え」と、思ってもみなかったその質問に私はあっけにとられる。


彼の言動は本当に飛躍し過ぎだけど、その質問には私がここにいるすべての答えが隠されているかのようにも感じられたし、彼の口元が妙に色っぽいので戯言のようにも捉えることができた。
どっちにしろ、私にはこの質問に答える正確な知識を持っていない。

前にも言ったが、本当によく知らないのだ。
歴史なんて、フランシスコ・ザビエルの肖像画をひっくり返したらペンギンに見えたとか、織田信長が本能寺の変で亡くなったとか、ペリーが黒船で来たとか…





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