第2章 助けて下さい、月山さん。
「月山、さん...?」
そこに居たのは紛れもなく美食家...月山習。でも、彼は何時もの様に余裕な顔をしていなかった。苛立ちと、殺意。この人のこんな顔は初めて見た。
「カネキくん、大丈夫...では無さそうだね...。...さて、君...見ない顔だね?何処の喰種だい?」
一瞬僕を心配そうに見た月山さんは、すぐに僕の上の男に眼をやった。その眼は赤くなっていて、彼はぐしゃり、と腹立たし気に丁寧にセットされた前髪を掻き乱した。
「まぁ良い。この際何処の喰種などは関係無いね...。君、カネキくんを、喰べたのかい?」
しゅるっ、と月山さんの赫子が背中から突き出てきて彼の腕に巻き付く。男は無言のまま僕の上から立ち退くと腰のあたりからしゅるり、と赫子を出した。
「あァ、旨かったヨ」
「そうかい、そうだろうね?カネキくんの肉は上等だから。そうか、喰べたのか。」
だったら、死にたまえッ!!!
月山さんはそう叫ぶと男に飛び掛かった。そして、喰種同士の争いが始まった。飛び散る血肉と苦悶の呻き声の中、僕は呆然と空を見上げていた。何分間たって、ずるり、という音と共に月山さんが僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫かい、カネキくん。」
「ありがとうございました...って、貴方こそ...」
彼は血塗れだった。紫色のスーツが血を吸い込んで黒く変色してしまっている。
「大丈夫だよ、これは反り血だからね。」
「そう、ですか...」
ほっ、と息を吐くと視界が暗くなって月山さんの顔が見えなくなってきた。心配そうなその顔に手を伸ばし、僕はそっと血の付いた彼の頬を撫でた。そこで、ぷつんっ、と僕の意識は途切れた。