第1章 出会いは春の風と共に。
「おーい、花見行こうぜ!花見!」
そんな呼びかけをしたのは、
部屋に入ってきた歩く呑んだくれこと、信楽である。
「花見かー。まあ、確かにいい時期だもんなぁ。」
信楽の声に洗濯物をたたむ手を止めることなく
相槌をうつコックリさん。
そういえば、先日買い物に行った
少し遠めのスーパーの近くの公園で、
桜の蕾が綻んでいたことを思い出す。
「まあ、おじさんは呑めれば何でもいいんだけどな。」
にひっ、と笑う信楽の手に揺れる徳利。
仄かに漂うアルコールの香り。
歩く呑んだくれ…(以下略)
「この酔っ払いニートめ!!」
お母さんは許しませんよ!とでも言いたげな
コックリさんだったが、まあ、何というか
そこがコックリさんだというべきか、お母さんは甘かった。
「お母さん言うな!」
虚空へとツッコミを飛ばしつつ、傍らで
お手伝いすることもなくコロコロしていたこひなに
「おい、こひな。花見行かないか?
桜は綺麗だし、空気は気持ちいいし。
出店とかも色々あるぞー。」
「カプめんの屋台はありますか?」
「んなもんあるか!ってか、カップ麺ばっかり
食べてるんじゃない!」
雷を落とすお母さんである。
「だから、お母さん言うなっての!」
お母さんに怒られた。
「…狗神、お前も行くだろ?」
お母さんであることを認めたらしいコックリさんは
ひたすらこひなでハァハァしている狗神も
一応誘ってみる。
「我が君が行くのであれば、
私はどこまでもついていきますが。
寧ろ、我が君と二人きりならば、世界の果てまでも…!」
「はいはい。じゃあ、まあ、丁度明日は休みだし
弁当作って花見って事で。」
スルースキルがカンスト状態なコックリさんである。
「信楽、お前言いだしっぺなんだから
ちゃんと場所取りしとけよ?」
「えー。おじさん、明日は朝からお馬さんの
応援に行こうと思ってたんだけど。」
「花見したけりゃ、ちったぁ働けクソ狸!」
「へいへい。」
そんなこんなでバタバタと花見の予定を立てつつ
お弁当の中身に何を入れようかで
ちょっとワクワクしてしまう女子力の塊こと
コックリさんなのでした。
「…オレのイケメン設定、誰か拾って届けてくれないかな。」