第1章 君の声にかき消されて…
その後もリハーサルは続いた。
さっきのことで少しは気が楽になったつもりだった。
でも、やっぱりそのパートが近づくと嫌でも意識してしまう。
そして、やはり私の声は渋谷さんの声にかき消されてしまった。
スタッフさんももう誰も止めない。
呆れられたのかな、私。
歌っている最中にチラリと渋谷さんが私の方を見た。
ごめんなさい、と心の中で謝る。
リハーサルが終わったらまたちゃんと謝ろう。
そして声をかき消されないようにしっかり練習しよう。
そう心に決める。
「はい、じゃあ今日はここまでっ」
スタッフの1人が手を叩きながら言う。