第3章 今宵、眠る寝台での回想録
戸惑う彼女の姿は、怒られる仔犬によく似ていた。
我ながら言っていることが無茶苦茶だが、彼女は自分にも責任があると感じているのか、諦めたように桃色の唇を開く。
「………好き、です。」
「誰のことが?」
一瞬、彼女は目を見開くが、数秒、考える素振りを見せて再び声を絞った。
---…クジャ様のことが好きです。
伏目がちな彼女の頬は林檎のように紅かった。
「…人として、ですよ?」
彼女は付け加えるが、そうであるなら、何故そんなに顔を紅くする必要があるのだろう。
尋ねたくなる気持ちを我慢した。
次に言ってもらえなくなりそうな気がしたからだ。
「今はそれで充分だよ。」
今晩はいい気分で眠れそうだった。
「そうだ、これくらいならいいだろう?」
僕は思い出したように、彼女の顔周りの髪を掬い上げ、耳にかける。
そして、こめかみに唇を触れさせた。
彼女の肩が跳ねるのを感じる。
「挨拶みたいなものさ。」
「…私は、生まれてこの方、そんな挨拶をされたことなんてありません。」
恨めしそうに僕を見上げる彼女の頬は紅く染まったままだ。
「じゃあ、変えよう。僕の約束の証だ。」
「さっきは挨拶って言いました。」
「それじゃあ軽すぎるかい?不満なら考え直すよ。そうだねぇ、もっと濃密な方がいいかな?」
彼女はため息をついた。
「さっきので大丈夫です。」
引きつった表情が面白かった僕は、声をあげて笑った。