第3章 今宵、眠る寝台での回想録
伏し目がちな横顔に引き込まれるかのように、気づいた時には、彼女の耳元に口を寄せていた。
「彩りがほしい気分なんだ。」
「…?この城にある物なら、お持ちすることはできるかと思います…」
僕は彼女の丸い瞳を見つめる。
彼女の瞳も僕の瞳の奥を見つめている。
そうじゃないかもしれないが、そう感じていたかった。
「じゃあ、ここにいて。」
「え…?」
彼女の瞳の奥が揺れた気がした。
僕は整えられたばかりのシーツに身体を投げ捨てた。
そして、彼女の手を引く。
彼女は、僕の横に倒れ込む。
それを壊れてしまわないように、僕はそっと抱きしめる。
ほんのりと彼女の体温が伝わってくるのが、不思議に感じた。
「シェリー、キスがしたい。そう言ったらしてくれるかい?」
しばらく沈黙が流れた。
彼女は視線を泳がせながら考え、ゆっくりと口を開く。
水の中で波長が伝わるような、少しばかり長い時間だった。
「私、クジャ様が考えていることがよくわかりません…。もし、だだそういう気分なだけならばお好きにどうぞ…」
しかし、答えは期待していたものとは違った。
水中から顔を出した時のような現実味があった。
僕は、心のどこかで落胆したのだと思う。
自分でも何を期待していたのかは分からない。
けれど、桃色の艶っぽい唇から、繊細で甘い鈴のような声が紡がれる気がしていたのだ。
「ふぅん。割り切ってるんだね。せめて、嫌がられると思っていたのに。」
「嫌がられた方がいいかのような言い方です…」
「そうかもね。」
僕は彼女のか細い小さな手に自分の手のひらを重ね、指を絡めた。
「シェリー、僕は女王陛下専属の侍女を客室として与えられた部屋のベッドで抱きしめてる。すごく変な感じだ。」
「私もこういう状況は初めてです。」
彼女の言葉に、自然と笑い声が漏れた。
「それなら、これからも僕だけだ。約束だよ。」
「クジャ様みたいなことをする人には、早々お会いしないかと思います。」
「もし会ったとしても、断るなり、逃げるなりするんだ。」
「つまり、クジャ様はクジャ様だけが私を抱きしめ、キスができる状況を望んでいるということですか?」