• テキストサイズ

FFⅨ Hi Betty! (Short)

第3章 今宵、眠る寝台での回想録


「失礼します。」

短いノックの後、彼女は背中で扉を押しながら、僕のいる客室へと足を踏み入れた。
その両手には、皺一つない真っ白な布地が2枚程、抱えられていた。
僕がいるとは思わなかったのか、彼女は一瞬驚いたような顔をしてから、「シーツを交換しに参りました。」と一言告げた。

「好きにしなよ。」

僕が答えると、彼女は抱えていた布地をソファの肘置きに掛けた。
それから、昨晩僕が象女とのつまらない会食を済ませた後、つまらない記憶をリセットするかのように眠ったベッドに向かい、シーツの交換を始めた。
僕は彼女が布地を置いた肘置きのすぐ側に座り、彼女の様子をじっと眺めていた。
けして手際が悪いわけではない。
しかし、てきぱきしているとは言い難い動作だった。
手順云々の前にどこか危ういのだ。
彼女はベッドから剥ぎ取ったシーツを簡単に畳むと、床に放り、新しいシーツを取りに僕が座るソファの前までやってきた。
やっと彼女と目が合ったが、すぐに視線は逸らされた。
彼女はシーツを手に取ると、特に言葉を発することなくベッドへと運んだ。
手に取ったシーツをマットレスの端に宛てがい念入りに、整えていく。
彼女が動く度に、給仕服の裾はひらひらと揺れた。

「…真っ白、ねぇ。」

僕は呟いた。
彼女は振り返り、眉を寄せる。

「白はお気に召しませんか…?」
「…別に。」
「申し訳ございません。」

表情を曇らせ、俯く彼女がどうしようもなく、愛おしく思えた。

「構わないけど。」

僕は立ち上がり、彼女の傍らまで歩み寄った。
彼女の視線は僕の動きを、追っていた。
さぞ、不安そうに。
彼女はこれまで、どれだけの理不尽を目にしてきたのだろう。
女王様は最も、他の来客も、この触れたら壊れてしまいそうに危うい、彼女の表情、仕草を独り占めしていたのだろうか。

「僕だけのものならいいのに。」

彼女の頬、耳元に手を滑らせる。
絹のように、滑らかな肌は上気して、ほんのりと赤みを帯びていた。
潜ませた眉の下の瞳は、僕を視界に留めないよう、横目で客室の壁を見ている。

「私なんかをたぶらかしたところで、クジャ様に利益なんかありません…」
「たぶらかされてるのかい?」

彼女は、小さく息を吐いた。

「…今のは忘れてください。私の自意識が過剰でした。」
「本当にそうかな?」
/ 27ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp