第6章 悪者センチメンタル
「何故私が姉のところへいったと……?」
ロカのその表情には単純な驚きと事情を知られたことに対しての嫌悪感が惜しげも無く浮かんだ。
「ギディオンさんがそう言っていたので……知られたくないことでしたか?」
「いえ……。 ただあまり、自分のことは知られたくない性格でして」
「あ……そうでしたか! ごめんなさい、忘れます」
はロカをじっと見つめた。 ロカは困ったような表情で首を傾げる。
訊くなら今しかない。
__そう思った。
「どうしました……?」
「アイヴィー・シャムロック、ってどなたですか?」
ロカならばメリルのように怒ることもないだろうと思った。
しかし、アイヴィー・シャムロックという名前を聞いた瞬間ロカの表情は硬直した。
「……どうして」
「え……?」
「誰から聞いたんですか、その名前を。 どこまでそのことを」
ロカはを思いっきり壁に打ち付けるようにして追い込んだ。 は背中に感じた鈍痛に小さく声を上げ、目を見開く。
「貴女が踏み込んでいいことではありません」
の頬に、冷たい手が伝った。 背中に冷や汗が垂れる。
メリルなんか比にならないくらい冷たい表情。 そこに浮かんでいるのは明らかな殺意だった。
「メンバーが話すわけないですし、差し詰め武器屋のカーシーですか? あの人はギディ以上にお喋りさんですから」
「……そう、です」
「今度きつく言っておきます」
このロカを前にしたは嘘をつく余裕も、誤魔化す余裕もなくただ頷くことしかできなかった。
威圧感。 普段の温厚なロカからは想像できないとんでもない殺意と蔑みはすぐにを後悔のどん底へと突き落とした。
アイヴィー・シャムロック、この名前を出した瞬間の攻撃的な表情が頭から離れない。
優しい人だと思っていたのに。 壁に押し付けられたままのは瞳に薄く涙を浮かべた。