第1章 悪者シンドローム
「最後だよ。 ただ、戦闘の方素人だから手加減頼むわ」
「はあっ? 何それ意味わかんない」
メリルはズカズカとに近づいてきては、観察するように上から下へ、下から上へ、視線を流した。
「……ふーん」
挙句興味のないような声をこぼしては、の首にナイフの先をちょん、とあてた。
「ひゃ?!」
その冷たさには震えて、慌てて後ずさる。
「僕に一回でもナイフをあてたり、掠ったりしたら君は晴れてメンバー入りだよ? ただ、僕が先に君を刺しちゃったら君は晴れて天使の仲間入りさ」
どちらにせよ良い結果、のような言い方だが後者は死だ。
はガチガチと震えながら警戒するようにナイフを突き出し、身構えた。
ギディオンは部屋の隅で腕を組みながら様子を見ている。
「ほんとに素人なんだねえ? 君」
「は、はい、はじめてですから……」
「そんな君はこんなところに来ないでお家で寝てたほうがよかったんじゃない?」
それはもう亀のようにゆっくりと、ナイフを腹の前から突き出しながら歩いてくるの様子を見てメリルはハッ、と笑った。
「君みたいにまあ、そこそこ可愛い彼女が死んだら彼氏が悲しむんじゃない?」
「かっ彼氏いません!」
特に脈絡のない会話をしながらも、彼らの距離は縮まっていく。
「彼氏いないんだ? 僕にでもいるのに。 まあ、殺しちゃうんだけどさ」
「メリルさんみたいに、おしゃれになったらできますか……?」
「まあ、……?!」
「わっ!!」
ようやくナイフが届きそうな距離までくると、は突然メリルの視界から消えた。
……というよりも転んだ。