第5章 悪者プルガトリオ
「……いーち」
はゆっくり一から数を数え始めた。
広い食堂には規則正しいリズムで数を数えるの声だけが響く。
赤い長机の上に置かれた冷たい燭台と睨み合いながらゆっくりゆっくりと数を刻む。
やがて九十を呟くと、は立ち上がった。
「きゅーじゅきゅ、ひゃーく」
食堂のドアを開けて玄関ホールに顔を出すと物音がしない様子からダリルはもう隠れ終わったらしい。
は食堂から出て、玄関ホールを見渡した。
さすがに此処は階段の裏かソファーの下くらいしか隠れる場所がない。 こんなつまらないところにダリルは隠れないだろうと思いつつも一応確認して、食堂とは反対側にある玄関ホールから繋がった部屋に入った。
そこは玄関ホールよりも大きなダンスホール。
天井には大きなシャンデリアがぶら下がり、豪華さを醸し出す壁紙に模様が描かれた床。
「こんなところで踊ったら気持ちよさそう」
はそこでクルリと回ってみせた。
__昔はここで舞踏会何かが行われていたのだろうか。 豪華なドレスで着飾って、素敵な男性と踊ったりして。
想像するとそこにはの理想の世界が広がっていたが、今はただの広い部屋である。
「もったいないな」
そんなことを呟きながらは特に隠れるような場所がないダンスホールを後にした。