第5章 悪者プルガトリオ
「ダリル君は凄いですね、そんなのまで分かっちゃうなんて」
「うん! まあね。 僕本とかいっぱい読んだから難しい言葉も大体分かるよ」
昨日メリルに聞いた話によると、ダリルは所謂天才少年らしい。
10歳にして大人でも理解できない数式を解いたり、株の動きを見極めたりするだけでなく高度なプログラミングやハッキングもお手の物で、今やGrImMsには欠かせない存在となっている。
声変わりのしていない無邪気な声や悪意を感じさせない眩しい笑顔からは想像できない姿。
「食堂に何か食べ物ってありますか?」
「ん? んー…… 確かロカ兄ちゃんが何か用意してたような」
「あ、そうですか! じゃあちょっと食事してきちゃいますね」
「姉ちゃんがいくなら僕もいくー!」
「えっ、パソコンはいいんですか?」
「目が疲れたし、もう飽きちゃった! 僕もご飯食べる!」
こういうところは子供っぽいんだな。
はパソコンを置いて自分の後ろをちょこんとついてくるダリルに小さく笑った。
「ロカさんはお母さんみたいですね、わざわざご飯作って置いていってくれるなんて」
「あのね! ロカ兄ちゃんの料理ってほんと美味しいんだよ」
食堂に入ると甘い匂いが漂ってきた。
長い机の端と端にはバニラアイスの乗った豪華なフレンチトーストが置かれている。 メープルシロップの食欲を誘うような甘い香りにの腹は音をたてた。
「おいしそー……」
はそう呟きながら奥の席につき、フレンチトーストを見つめた。
こんがりと焼けたきつね色のバケットにバターが染み込み、贅沢に乗せられたバニラアイスの上からはメープルシロップが垂れている。 もう見ていることさえ辛い、甘い刺激。
「いただきます!」
「いただきまーすっ」
は両手を合わせてから用意されていたフォークとナイフを手にもつと、一口サイズに切られたフレンチトーストを口に運んだ。
とろけるような甘さに可笑しな声が出てしまう。
「んー! 何これ凄い美味しい!」
「でしょー!」
得意気なダリルの声が席の端から飛んでくる。