第3章 悪者エレジー
「凄いなあ……」
何がそうなのか自分でも分からないまま声が出て、はきらきらした表情を浮かべているもそれも束の間。 メリルがの頬をきつく抓ってきた。
「?! いたたたた」
「何ぼーとしてんの? 早く出かける支度してよ」
「は、はい……」
に格別きつくあたるメリルはの赤くなった頬を一瞥して、自分の部屋に戻って行った。
「……メリルさんきついな」
は悩ましげな顔をしてそう呟くと、早足で自分の部屋に戻った。
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メリルと出かけるとなると身嗜みには細心の注意が必要な気がしたは髪を一つにまとめ、花の髪飾りを髪につけて軽い化粧をした。
それでも文句をつけられるんではないか、とは心の底では怯えながら下手に弄ってもそれを指摘されるかもしれない。
とにかく女であるよりも、綺麗なドレスを身に纏い、女顔負けの美人であるメリルと出かけるのはにとって大問題であった。
__ガチャッ。
すると、いきなり部屋の扉が勢いよく開いた。
「ひっ?!」
鏡の前にて、変な態勢で自分と睨めっこをしていたはそれを見られたことに対して可笑しな悲鳴を上げる。
そして恐る恐る振り返ってみるとそこには見知らぬ男の姿があった。
「だ、誰ですか?! 不審者?!」
「……はあ?」
完全にパニック状態になったはその男に化粧品を投げた。
「何、君そんなに殺されたいの」
「え……?」
そして発された男の声に、目を見開く。 と同時に顔を青ざめさせた。
「メリル……さん?」
「君は本当に低脳だねえ。 ちょっと恰好が変わっただけでギャーギャー騒いじゃってさ。 段々可哀想になってきちゃったよ」
自分に対する散々な言われようにはがっくしと肩を落とす。
しかし別人だと思うのも無理もない。
長いと思われていたピンク色の髪は短髪になっており、服はドレスではなく白いスーツだ。 目を鋭くするようなメイクも施されていて“可愛いメリル”の面影はない。