第1章 私達は生きる。
どうやら黒幕は不正を侵したらしい。
私達の学園生活は全国に、全世界に放送されていたらしい。
本物の学園長は随分と前に死んでいたらしい。
私達16人は2、3年を共に過ごした学友らしい。
世界中で暴動が起こって、たくさんの人が死んだらしい。
外の空気はまともに吸えないくらい汚染されているらしい。
この世界は絶望に呑み込まれているらしい。
その首謀者が、私達の謂うところの黒幕らしい。
嘘だ。
たくさんの事象を突きつけられた。
たくさんの事実を見せつけられた。
クマ型ロボットを操縦していたのは私達のクラスメイトだった。
絶望が好きだと。
もっと絶望に染め上げられた世界が見たいと。
恍惚と愉悦の表情で歌うような調子で告げた。
何でだろう。
どうして彼女はこんなことをしたいんだ?。
どうして彼女はこんなことをしたんだ?。
分からない。
彼女と私は……私達は、何もかも違う。
基準さえ違う。
常識さえ違う。
心象さえ違う。
理解できない相手と、どう戦えばいい?。
絶望だ。絶望だ。
目の前が、真っ暗だ。
此処に残ろうか。命が尽きる其の日まで。
殻を割って外に出ようか。外気に触れた途端死ぬかも知れないが。
此処は平和だ。外からの干渉を一切受けはしないのだから。
此処を出て、自分達の生きる道を切り開こうか。きっと幾つもの苦難が待ち受けているだろう。
この選択は人生を大きく左右する。
黒幕の保護下に置かれ、何事もないように一生を此処で過ごす。生きていても、死んでいるようなものだ。
危険しかなさそうな外界に出て、新しい一歩を踏み出そうか。無謀な賭けだが、これで黒幕は死んでくれるのだ。
最後の学級裁判。
まさかこんな選択を迫られるだなんて。
みんなはどうするのだろう?。
迷ってる。迷ってる。
当たり前だ。
こんな選択を即答できる奴なんていない。
黒幕は愉しそうに笑っている。
どうしよう。
どうしようもないな。
死ぬのは嫌だ。
でも、だからと言って此処に残るのは………。
その時。
一人の少年の言葉が、決断を迷う背中を強く強く押した。まるで分厚い雲の切れ間から光が差し込むように。
彼がみんなへ差し伸べた手が眩しくて。
あぁ、諦めてはいけないな。
まだまだ頑張らなくては。
みんなの意見は、そこで一致したようだ。
私達にとって彼は、幸運の少年は、生きる希望になった。