第6章 finale
今夜は花の香りがする。
忘らるる都と呼ばれるこの地の奥で、記憶の奥底に大切にしまってある懐かしい香りを彼は感じていた。
彼は、ヴィンセントは、かつて神羅屋敷で行われた悪夢のような実験を止められなかった過去を悔やみ棺で自らを戒めるため悪夢を見続けていた。死ねない体は自分への罰であり、一人苦しみ続けるのが唯一自分に出来る償いだと信じながら。
しかし彼を一人の旅人が目覚めさせた。彼もまた訳ありだった。
ヴィンセントは最初こそ眠りを妨げる男の語りを煩わしく思っていたが、セフィロスの名を聞いて運命めいたものを感じたのだ。
長いようで短い旅路だが、確実に終章へと近づいていた。そんな矢先。
突如セフィロスに擬態したジェノバが彼らを失意の底へと突き落としたのだ。
清らかな湖に遺体を流す。
エアリス。彼らのパーティのヒーラーだった。
彼らは悲痛な表情を浮かべ、湖に向かって祈りを捧げていた。花を手向け、涙を流す者もいた。
重たい空気を断ち切るように、一人の男がすくりと立ち上がる。
「……今日は少し休もう。明日になったら集まってくれ」
リーダーの一声でメンバーがようやく散り散りになった。
彼らを見送り肩を落とし絶望に打ちひしがれるその男をヴィンセントが気遣う。
「クラウド……。お前もゆっくり休め……お前は色々と背負いすぎている……」
「あんたこそ、だろ」
「……ああ、そうだな。クラウド、私も少しこの場を離れるぞ……。この付近には色々と因縁があってな……」
クラウドがヴィンセントの顔を黙って見ているが、それ以上会話は進展しない。
「詳しく話すつもりはなさそうだな」
「明日には戻る……」
「勝手にしろ、自由行動だ」
それを聞くと、ヴィンセントは森深くに姿を消した。