第3章 一つ合宿所の屋根の下
* * *
「ん、これで良しっ」
鏡に向かって軽く頷く。眼前の鏡に映る自分を見詰め、身支度が完璧に整っている事を確かめる。よく見ると右の方の髪が少し乱れているのに気付き、櫛を通す。
今度こそこれで良し。朝起きて脱衣所の鏡を見た瞬間、自分の寝癖に吹いたのは最早良い思い出。髪を濡らしてドライヤーで必死に寝癖を直したのも良い思い出。
脱衣所を出て食堂へ向かうと、ふわりと味噌の香りが鼻を擽る。
「先生!」
「あっ!おはよう瀬戸さん!」
「おはようございます」
調理場に立っていたのは、相変わらずエプロン姿が似合い過ぎる武田先生だった。おたまを持ちながら笑顔でお鍋の前に立つ姿が眩しいっス先生。
「起きるの早いねー。もっと寝てても良かったんだよ?」
「いえ先生こそ。朝ご飯作ろうと思って起きたんですけど、先生に作らせてしまって、申し訳ないです」
「いや良いんだよ!瀬戸さんも疲れてるでしょ?朝くらいゆっくりして良いんだよー」
武田先生はお味噌汁の鍋の火を止め、蓋をする。調理場には焼き鮭に玉子焼きなどの、温かで美味しそうなおかずが出来上がっていた。もう作るべき物は残ってないであろう。
「でも、ご飯作るのは私の仕事なのに申し訳ないです…」
「良いんだよ。僕、少しでもみんなの役に立ちたいんだ」
武田先生は強く静かに言葉を吐き出した。私はその声に黙り込んでしまう。