第3章 一つ合宿所の屋根の下
「ま、まぁ 俺だってやるときゃやるんだぜ。今日は、たまたま細かいとこまで気が回ったからとか、そんなんじゃないんだぞ!?」
そんなんだったんだな先輩。でもそういうところも含めて田中先輩なんだろうな。不意に先輩が弁明する口を止め、ガシガシと後頭部を掻く。何か言いたげに瞳を彷徨わせる。
「…? 田中先輩、どうかしましたか?」
「あ、あー…ん~……」
落ち着かないのか、忙しなく田中先輩の手や瞳が動く。タオルを手で玩び、口元をもにゅもにゅと動かすと、覚悟を決めたように息を大きく吸った。
「あのさ!もし、お前が良けりゃ、1年探すの…手伝ってくれよ!」
「へっ?」
「あっ、あー!別に、先輩命令なんかじゃねぇし!嫌じゃなけりゃの話だかんな!ひ、1人じゃつまんないからって思って、もし瀬戸さえ良ければ一緒にーなんて…」
私が突然の誘いに間の抜けた言葉を漏らしてしまった為か、後半から勢力が縮小していくのが目に見えていった。田中先輩も完全に頭が下がってしまっている。せっかく声を掛けてくれたのに申し訳無いことをしてしまった。
「あの、田中先輩!ぜひ一緒に行かせてください」
「えっ、え!良いのか?!」
「はい、私で良ければ…」
「おうっ!じゃあ行こうぜ!」
先程の表情とガラリと変わり、喜色満面の笑みが浮かんでいる。それを見て、胸を撫で下ろす。二人揃ってスリッパの音をペタペタと立てながら、田中先輩の隣に立って歩き出した。