第2章 天使の前世
どすっ
鈍い音がした。
隣を見ると、愛姫が蒼白した顔でわなわなと唇を震わせていた。
「愛姫....?」
「....え?」
愛姫は腹に触れると、ゆっくりと視線を落としていった。
その視線を追うと、小型のナイフが刺さっていた。
そのことを脳が認知した瞬間、考えるより先に身体が勝手に動いていた。
腹からナイフを抜き、体温が下がらぬよう自分の上着を着せゆっくりと座らせる。
それから助けを呼ぶために精一杯声を張り上げた。
「だれか たすけをよんでください!!!重傷なんです!!おねがいします!!」
幸い近くに民家が多かったのがせめてもの救いだった。何事かとぞろぞろと家から様子を見るように何人かの人が出てきた。
そして中年の男性が走りより俺と愛姫に近づいた。
「おねがいします!はやくたすけをよんでください!!命が危ないんです!!はやく!!」
男性は俺を見たあと口を開いた。
「―――っ!!!」
「....え?」
な に を い っ て る?
「この人殺しが!!」
人殺し?誰が?
俺のことか....?
「よくも!助けが呼べたもんだな!!人殺し!!」
違う....
「違うんだ!俺はやってない!!それよりはやく!!助けを呼んでくれよ!!そんなこと言ってる場合じゃない!!」
「何が違う!!その手に持っているのはなんなんだ!!」
手に持ってる?
ふと、言われて両手を見ると
手にはベッタリと血がつき、赤黒く染まっていた。
右手には、これも血のついた小型のナイフが握られていた。
抜いたときのまま、持っていたのに気がつかなかった。
「これは違う!!俺のじゃない!!いいから助けを呼べよ!!そんなこと言ってる場合じゃない!!」
「殺人犯は黙ってろ!!この人殺しが!!よくも!!よくも!!」
そう言うと男性は俺を殴り倒した。
「っ!....ほかの見てる人でもいい。はやく呼べよ!!ノロマがァ!!」
「黙れ黙れ!!暴言を吐きおって!それが本性か!!お前は悪魔だ!!」
男性は俺の胸倉を掴み引き起こすと殴り続けた。
何度も殴られているうちに意識が遠のいていく。
頭の中は同じ言葉が回る。はやく、助けを呼んでくれ。愛姫を助けてくれ。俺が罪人になってもいい、愛姫を助けてくれるなら....。
遠のく意識の中で一つ思い出した。
俺を殴っている男性は
愛姫の父親だった。