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水戸部短編詰め合わせ

第8章 応援


「あれっ天海だ」
 登校するとなぜか図々しくもななの席に座っていたクラスメイトがびっくりしたような顔でそう声をかけてきた。
「なによ。来ちゃ悪いの? てかあたしの席」
 ムッとして答えると、慌ててクラスメイト――小金井は飛び上がるように椅子から退き、隣の席に座っている水戸部の背中にのしかかる。
「そうじゃなくて、だって、昨日休みだったじゃん。風邪でもひいたのかと思ってた」
 言い訳がましい、と思いつつそちらに視線をやれば小金井よりも水戸部の心配そうな表情に言葉が詰まる。
「ばっ……! ……こんな、時期に。風邪なんかひかないわよ。てか、ひいてらんないわよ」
 何故か恥ずかしくなって、ななは視線を鞄に落として教科書を乱暴に引っ張り出す。
 季節は初夏。半年間しまわれていた夏服が再び肌に馴染みはじめた頃。
「風邪ひいてらんないって、なんかあったっけ」
「あのね、バスケ部はインハイ行けなくても、野球部も吹部もまだこれからなの!」
 夏の大会。コンクール。小金井や水戸部の所属するバスケ部は地区大会で優勝を逃し、全国大会へは行けなかった。けれど野球部の甲子園を目指す地方大会はつい数日前に始まったばかりだし、ななの所属する吹奏楽部の夏のコンクールももう少しだけ先の話だ。
「……んん?」
 と、小金井が腑に落ちない、という顔になる。
「なんで野球部まで引き合いに出すんだよ」
 その言葉に、今度はななが呆れる番だ。
「野球部の応援に吹部が駆り出されるからよ! 誰がスタンドで音出してると思ってるの?」
「あ、そっか!」
 この時期、コンクールの練習と並行しての野球部の応援。もういっそ倒れてしまおうかと思いたくなるが、そんなわけにはいかず、特に誠凛は上の学年がいない分自分達の学年がこれからの手本になるように活動しなければならない。そう考えると風邪なんてひいてられないし、もっと言えば授業に出る時間すら惜しい。
「で、昨日が野球部の試合だったの」
「勝ったの?」
「なんとかね」
 辛勝、といったところだった。一回目の試合で観客の熱もそれほどなく、両校野球部員達のやる気ばかりが熱かった。
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