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水戸部短編詰め合わせ

第5章 見つめる、先


 そこまで言うと、もう声も出せなくなってしまったように、天海は赤い顔を両手で隠して俯いてしまった。その姿に降旗は感心すらしてしまう。
(本当に、“見たかった”のか……)
 勿論男女のことだ、それだけではないだろうしあわよくばなんて考えていたりもするだろうが。だから。
「天海……」
 名前を呼ぶと、少し顔を上げて降旗を見詰めた。
「キモい」
「!!!」
 があん、とショックを受けたように目にじわりと涙を浮かべる天海。
「しっ、知ってるもん! 自分が気持ち悪いのくらい、わかってるもん!」
 言い返すが、むしろ自分に分が悪すぎる。
「でも、好きなんだもんんんん」
 ぼた、と涙がこぼれる。さすがに降旗も慌てるし、周りも二人の様子に興味を隠す様子なく見詰めている。
「フリ……女子泣かすなよ……」
「俺!? いや俺だけど! でも俺じゃねーし!?」
 友人に肩を優しく叩かれ、降旗はええい、と天海の涙に負けじと語気を強く言い返す。
「好きなら! ……好きなら、もっと他にもやりようがあるだろ! 違うやり方で、先輩達に迷惑かけないように、やれるだろって!」
 それは、激励。降旗にも思うところはあるのだ。わからなくもない。だからこその、叱咤。
 天海は一瞬ぽかんとした後、頬に残る涙を袖口で拭くと、「うん」と小さく呟くように返事をした。
「ありがと、頑張る、気を付けるね、は……ふ、は……旗降くん」
「降旗」
 名前はまだ、覚えてもらえないようだ。
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