第14章 媚薬
「カエデが…ねぇ…」
ビッチ先生は組んでいた足をほどいた。
「望乃」
「今からあんたに言うことは教師としてじゃなく、人生の先輩として言わせてもらうわ」
あまりにも真剣な顔つきに息をのむ。
「人間はね、簡単に嘘をつく生き物よ」
――だんッ!
私は思いっきり机を拳で叩いた。
「・・・カエデが私に嘘をついたとでも…?」
ギロリと瞳をビッチ先生に向けた。
「…最後まで話を聞きなさい」
「私はカエデが嘘をついているとは言ってないわ。ただ、人間は常に隠し事をする生き物だということを言いたかったのよ」
「・・・」
私は叩きつけた拳の色が青く変色しているのも気にかけず、ビッチ先生を睨みつけた。
「あんたは人間を信用しすぎてるのよ」
「違う!!」
私は耳を塞ぎたくなるような甲高い声をあげ、立ち上がった。
「私は人間なんか信用していない!信用するはずがない!!私はカエデを信用したの!!」
「同じことよ」
「違う!!」
私は上からビッチ先生を睨みつけた。
「人間は自分の欲求を満たすためだけに行動している!!カエデはそんなんじゃない!誰かのために、私のために行動を起こしてくれた!」
「カエデも同じ人間よ。それともカエデは人じゃないって言いたいの?」
「カエデは普通の人とは違う。カエデは優しい人間」
「もしもその優しさが仮染めの優しさだったら?」
「・・・」
私は何も言えず、下を向く。
「…最初から気づいてたんでしょう?だから悩んでたんでしょう?」
「…だって…カエデのあんな姿見たことなかったんだもん…」
私は心の奥底にあった認めきれない言葉を吐き出した。
「私は!カエデが私に隠し事してるなんて思わない!!」
いや、違う。
思わないんじゃない。思いたくないんだ。
「あんた…自分に素直になりなさい」
「嫌だ!!嫌!!カエデは私の…やっとできた…友達なの…」
「…人間をあんまり信じすぎないことよ」
ビッチ先生は暗い顔をして呟くように言った。
「…カルマも同じことよ。彼氏だからって人格が特別になるわけじゃないわ」
「っ…!カルマくんは…カルマくんは…!」
「望乃!!」
その場にビッチ先生の大きな声が響き渡り、数秒の沈黙が訪れる。
「…信じ込みすぎないことよ」
そう言ってビッチ先生は教員室を出た。