第14章 媚薬
液状になった殺せんせーは片岡さんの机へと忍び込んだ。
「液状ゆえにどんな隙間も入り込むことが可能に…!」
「どこに入ってんのよ…」
「しかもスピードはそのままに!」
怪しげに笑うこと殺せんせーはマッハで教室を飛び回り始めた。
「さぁ!殺ってみなさい!」
ビュンビュン飛び回る殺せんせーを捕らえることができず、みんなのナイフは空振りに終わる。
「だ、騙したんですか?!殺せんせー!」
奥田さんがそう言うと殺せんせーは動きをピタリと止めた。
「奥田さん、暗殺には人を騙す国語力も必要ですよ」
「えっ…」
今まで騒がしかった教室が嘘のように静まり返る。
「どんなに優れた毒を作れても、今回のように馬鹿正直に渡したのではターゲットに利用されて終わりです」
奥田さんはその言葉に衝撃を受けたのか、呆然と立ち尽くしている。
「渚くん、君が先生に毒を盛るならどうしますか?」
「え」
急に話を振られ、驚いたのか一瞬2人の会話に間が空くが渚くんは殺せんせーをしっかりと見つめ直した。
「うーん…先生の好きな甘いジュースで毒を割って、特製ジュースと言って渡す…とかかな」
「そう、人を騙すには相手の気持ちを知る必要がある。言葉に工夫する必要がある」
効果が切れそうなのか、殺せんせーはさっき脱ぎ捨てた服のもとへと戻っていく。
「上手な毒の盛り方。それに必要なのが国語力です」
「君の理科の才能は将来みんなの役に立てます。それを多くの人にわかりやすく伝えるために…毒を渡す国語力も鍛えてください」
「は、はい!」
奥田さんは殺せんせーの言葉をありがたく思うように元気よく返事をした。
「っはは、やっぱりみんな。暗殺以前の問題だね」
カルマくんは少し小馬鹿にしたように言った。
「っ…」
その言葉は、いや…その声は私の心を蝕んだ。
「望乃、ちょっと」
声がし、振り向くと扉の方にビッチ先生がいた。
「あんた、放課後どうせ暇でしょ?」
「えっ何、その言い方」
私はビッチ先生の言葉にムスッとし、頬を膨らませる。
「そんなことはどうでもいいのよ。それで、暇なの?」
「きょ、今日は暇だけど…」
私は下を向きながらしぶしぶ答えた。
「放課後、教員室に来なさい」
「え?なんで…」
私の質問に答えることなく、ビッチ先生は廊下へと消えていった。