第10章 愛嬌もの
「んー、やっぱ女の人の髪って…みんな細いの?」
『そーだね、いろんな髪質の人がいるけど、男の人に比べたら細い人が多いんじゃないかな。』
「…絵夢の髪の毛、触り心地いい。」
そう言って、彼はドライヤーをずらし、私の髪に顔をうずめる。髪を梳かれながら、顔を当てられると予想以上にくすぐったい。
『ちょっ…くすぐったい!椎っ、離れて!』
その感覚に耐えきれず身をよじる。髪を乾かしてもらっているときは特に何もなかったのに、地肌に触れられるとこんなにもくすぐったいものなのだろうか。
「ごめんごめん、はい戻って…まだ乾いてないから。」
反射的に彼から距離をとった私の袖を引っ張る。再び彼の脚の間に座るとドライヤーの熱が髪に当てられる。
「…ん?もしかして、シャンプー変えた?」
『わかるっ?いい香りだよね、マサさんにおすすめしてもらったシャンプー!』
「マサさんて…店長さん、だっけ?」
『そうそう、まだ若いんだけどすごい人なの!しかも見た目もかっこいいからお客様にモテモテ。』
マサさんの人気は従業員全員が認めるものだ。私ももちろん素敵な男性だと思う。美容師としても、人としても憧れる。
「…絵夢も…その人のこと……好きなの?」
『もちろん!職場の人はみんなマサさん大好きだよ。』
「……あっそ…。」
自分から聞いてきたくせに素っ気ない。まぁ、彼が素っ気ないなどよくあることだから放っておこう。
『ねえ椎!今度さ、駅前にできたケーキショップ行かない?この間雑誌で見つけたんだけどすっごい美味しそうだったの!』
「甘いものなら…好きだから別にいいよ。」
椎は男の子だが、甘いものが好きなため私はよく彼を連れ回してスイーツを食べ歩く。
少々周りの女の子からの視線が痛いが、そんなのはもう慣れっこだ。
「甘いものもいいけど…あんまり食べすぎないでね。俺、ほんとに持ち上げられなくなっちゃうかも。」
彼は後ろから顔を覗き込むようにして言う。耳に息が当たって体がはねる。
そのまま彼はニッと笑うと、私のお腹に手をまわして、自分の方へ引き寄せるように力を込める。