第7章 偽りもの
「…絵夢は…同居人だけど、同居人じゃない…。絵夢は絵夢…だから…心配、するし…考えちゃう…」
次第に視界がぼやけてくる。真っ白な彼のせいで、自分の黒い部分が嫌になる。
こんなにまっすぐで、真っ白な彼の、どこに非があるというのだろうか。自分も同じだと伝えればいいのに、なぜか私の口はそれを拒む。
『…椎は、大人だね。』
やっとの思いで口から出たのは、それだけだった。椎の髪を梳くように撫でる。
彼を撫でると、大型犬を思い出す。大きな体で、人懐っこくて、時々手に負えないこともあるが、あたたかい。
「絵夢…」
『ん…?』
「あ…つい…」
______ズッ
そう言った瞬間、私の体に彼の重みがのしかかる。いくら彼が座り込んでいるとはいえ、私に成人男性を長時間支える力はない。
『ちょ…椎!?』
彼の身体をより一層強く抱きとめる。すると、彼の熱がひしひしと伝わってくる。いつもあたたかい彼だが、少し様子が違う。
『…あっ、もしかして…!』
額に張りついた髪を払い、手を当てる。案の定、彼の額は熱を帯びていた。
『とりあえず家、入らなきゃっ…』
感情が高ぶっていたため、つい外で話し込んでしまったが、冷静に考えれば家の中で話すべきだった。
彼はいったいいつからこの寒さの中、私を探していたのだろう。不謹慎だが、それを少し嬉しく思ってしまう自分がいる。
『椎、立てる?肩貸すからリビングまで頑張って』
彼の腕を引き、自分の肩にまわさせる。背の高い彼は少し前屈みになる。熱をもった彼は、私に寄り添うように体重を預ける。今、彼と私の間に距離はない。