第6章 なにもの
「…ぇ、…ね……起き…」
朦朧とした意識の中で、彼の声が聞こえる。おそらく夢の中での幻聴だろう。先ほども彼に起こされる夢を見たのだ。
週に2日の休日くらい、好きに昼寝をさせてほしい。もう少し寝かせろと言わんばかりに、その暖かな存在に顔をうずめようとそれを引き寄せる。
「絵夢!早く起きて!!」
『ほぇっ…!?』
なんと先ほど私が顔をうずめようと握っていたのは彼のパーカで、目の前には彼の胸板がある。
『うあ!!えっ…とこれは…どういう!?』
彼の話によると、私に用があったため部屋を訪ねたが、返事がないため心配して扉を開けたそうだ。
すると、私が寝ていたので彼は一安心して起こしにかかった。そしてその後がさっきの流れだという。
「絵夢に…急に引き寄せられてすり寄られたからびっくりしたけど…なんか犬みたいで…かわいかった。」
『なっ…!いぬ?!』
私の方が年上で、この家の主人だというのに彼は何てことを言うんだ。私はちょっとだけムッとしてそっぽを向く。
しかしそんな抵抗も虚しく、彼はいい子いい子と頭を撫でる。泣き虫で年下の彼にこんなことをされるのは少々気に入らないが、その手を振り払うまでには至らない。
「あ、そうだ。絵夢、買い物…行こう?」
『買い物…?』
「うん、夕飯の。今日は何にしようかな…」
時計を見ると、すでに針は4時をまわっている。昼過ぎから寝ていたのだから大分長い間昼寝をしていたようだ。
「ほら、行くよ。日が暮れちゃう。」
『あ、うん。用意するから玄関で待ってて。』
そう言って、私はクローゼットに手をかけたのだった。
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スーパーまでの道のり、駅前の通りはすでにクリスマスカラーで彩られ、すれ違う人が皆、どこか浮き足立った雰囲気を醸し出している。
どこからかクリスマスの音楽が流れ、並木道の樹木には色とりどりの電飾が飾り付けてある。
「この辺…すごいね。いるだけで楽しいもん…。俺…こーゆーのあんまり見たことないから…新鮮。」
隣を歩く彼もまた例外なく、クリスマスの雰囲気に落ち着きをなくしている。私は毎年こんなものだろうと思うのだが彼にとっては違うらしい。
周りを見渡しては物珍しそうに目を丸くする彼の方が私にとっては新鮮だ。