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第5章 面影


壁外調査前日はどうしてもピリピリとした雰囲気になる。

明日死ぬかもしれない。

その為自分が今まで心に秘めていた想いを相手に打ち明ける人も多く、特にエルヴィンやリヴァイは部下達の憧れでもあるので呼び出される回数は多い。

エミも例外では無かった。

兵士長補佐になってから視線を感じる事が増しているのは知っていたが、今から会う予定の部下はこれで10人目。

リヴァイの私室から出る際に忠告されていた。

「今日は部下に呼び出さる事が多い。
キス以上の事はするな。
適当にはぐらかして抱き締めてやるだけでいい」

朝食を食べている時に何人もの部下に会いたいと言われた。

隣にいたリヴァイも同じ状況だ。

エミは待ち合わせ場所に向かう。

相手の名前は覚えていない。

班が違うと一緒に行動する事は少なく、人員不足と言ってもかなりの人数だ。

約束の場所に行くと兵士が1人立っていた。

「エミさん!」

兵士はエミに気付くと駆け寄ってきて手を握ってきた。

「あの...俺、エミさんの事が好きです。
でも明日死ぬかもしれないので、せめて俺の願いだけでも聞いて頂けませんか?」

真っ赤な顔をした兵士が見つめてきた。

「無理なお願いなのは分かってますが、キスして頂けませんか...?」

「うーん...
キスは無理だけど...」

そう言ってエミは兵士を抱き締める。

自分より遥かに背の高い兵士を抱き締めると首に腕を回された。

「有難うございます。
こうして抱き締めて貰えて嬉しいです」

抱き締めていた手を緩めると兵士は涙目でどこかへ走って行った。

エルヴィンから士気を上げる為に出来る限り受け取めてやれと言われたものの、やはり気乗りはしない。

今頃リヴァイも同じ事をしているだろう。

自分よりずっと多くの相手に…

今朝リヴァイから受け取った指輪はジャケットの内ポケットに入れている。

今それを見られたら部下達の士気が下がると思って外したが正解だった。

(疲れた...)

エミは近くにあったベンチに座って休憩する事にした。

こんな事をするのは訓練兵を卒業する前日以来だ。

好きな相手と別れてしまうのは辛い。

でも調査兵団に入ってからは意味が違う。

ふと空を見上げると澄み切った青い空が広がっていた。
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