第3章 帰りたい場所と描く未来
『ホント、みんな世話好きだよな。』
リンゴジュースを飲みながらハヤト兄は笑っていった。
『ほ〜んと、みんなは…』
…あったかい。
家までの坂を歩きながらふと後ろを振り返る。
西のそらはうっすら明るいが、街はオレンジ色の街灯に照らされ、海では何隻かが作業をしているのか船のあかりがみえる。
頬を撫ぜる風は生温かくて磯の香りがする。。
あたしはこのまちで育ち、そして育てられた。
『リン…?』
いつの間にか立ちどまっていたあたしを
ハヤト兄は不思議におもい声をかけてくる。
『あっ、ごめん。』
早く帰らないといけないんだ、と思い出し、足をすすめる。
『なぁ、リン。』
しかし、兄に並んだとき呼び止められる。
『ん?何?』
『…お前は将来、このまちに残るのか?』
『え…?…うん、このまち好きだし。何で?』
『…将来なりたいものはないのか…?』
『…このまちの役場か漁業組合で働くつもりだけど?』
『……俺は将来、神社つぐし、継ぎたいから神主になる。でも、他にやりたいことがないわけではなかった。』
街灯に照らされたハヤト兄の目は
いつものように穏やかな目ではなく、
真剣な目だ。
『本当はこの街をでて、神主になるためではない普通の大学へ行って、勉強したり、バイトしたり、、、バンド活動したりしたかった。』
初めてきく兄の本音にあたしはとまどう。
兄は何の迷いもなく、神主の道を選んだんだと思っていた。
『じゃあ、ハヤト兄は神主になるのは嫌なの?』
『いや、違う。そんな自分の自由よりも、みんなが大切にしている神社やまちを守ることの方が大事だしな、、、やりがいがあるから神主になるのは嫌ではない。』
『そう…。』
『でも…』
ハヤト兄の手があたしの肩をつかんだ。
両肩を掴まれあたしは兄と正面を向き合った。
ハヤト兄の目が真剣で、見つめるのが怖い。。。