第3章 帰りたい場所と描く未来
長く緩やかな坂を急いではしり下る。
舞の練習を終え、クタクタなうえに
後ろにギターをかかえ重いからはしるのが大変だ。
でも、それまでして走るのはやっぱり
“祭”のため。
祭を盛りあげるために、わたしと兄はバンドを組み演奏を披露しようと考えているのだ。
駅へつくと、以外に早くついたようで余裕があった。
あんなに走った意味は何だったんだ、とおもいながらホームへと入る。
すると、そこに見知った顔があった。
『ヒロキ!』
名前を呼ばれた本人は手のカメラを落としそうになりながらも、ふりむきこちらをみた。
『リン!…それにハヤトさん!』
谷知ヒロキ。
あたしと幼稚園からずっと一緒のヤツだ。
高校も地元から一番近い学校で一緒だ。
まぁ、田舎だからだいたいの人は一緒なのだが。
『何か撮っていたのか?』
『はい、次の映画に使えないかなって。。。』
兄が話しかけると、ヒロキは照れながらも答えた。
あたしたちが小学生のころ、まちのフィルムコミッションの一環で、映画撮影チームをまちに誘致し、まちを舞台にした映画がつくられた。その映画は小学校の体育館で試写会が行われ、それをみたヒロキは映画の世界に興味をもった。
いつしかまちの魅力を最大限に活かした映画を撮りたいと、将来は脚本家と監督になるのが夢であった。
今はその夢を叶えるために、高校の映画研究会に所属し勉強をしている。
『次はどういうのを撮るの?』
次、ということは、一度作ったことがあった。
中学時代に八ミリビデオで作ったつたないものだったが、人々の笑顔があふれ、まちの自然もきれいで、ヒロキのまちへ対する愛がすごく伝わる作品だった。
『祭を題材にね、脚本はだいたいできてるんだ。中身は…』
『ん…?』
ジッとヒロキがあたしをみたとき丁度電車がホームへと入ってくる。
扉が開くとなかから、人が降りてくるとともに
『リンちゃん?!それにヒロじゃん!!』
…と別の高校へと行った同級生がおりてきた。