第5章 単細胞生物
「見学だけじゃなくて、プレーしてったらどうだ?」
澤村大地は、体育館の隅でたつ依流に声をかけた。
「え……。いやー。」
「いいじゃん、いいじゃん。ナイスだ、大地っ!」
菅原孝子は、爽やかな笑顔で手招きをする。
「じゃ、じゃぁ…、着替えてきます…。」
「おうっ!」
菅原の笑顔を前に、依流は断ることができなかった。
「そこの、倉庫で借りていいですか?」
「ああ。」
体育館に響く声を背中に受け、依流は倉庫へと進んだ。
暗い倉庫で着替えをして、依流は詠流のプレーを思い浮かべる。
決して背の高くないプレヤーの詠流は、手先をフルに活用していた。
目を薄っすらと開け、スイッチを入れる。
「詠流よりは、手先は器用な自信はある。大丈夫、大丈夫。」
自分自身に言い聞かせるように、言葉を繰り返し扉を開ける。