第4章 烏野高校排球部
依流は、目の前の出来事に頭が付いて行かなかった。
気づけば、教頭のカツラが澤村の頭へと着地していた。
「澤村くん、ちょっといいかな…。」
澤村が呼び出され、約30分弱。
「幸いにも、特に何もお咎めなし。謝罪もいらない。ーーが、なにもみなかったことにしろ。」
あれほどの事を起こした張本人は、反省の色すらなくまた言い争いを始める。
「おい、やめろって…。」
制止はいる依流を、孝支こっちこっちと手招きをし距離をとらせる。
「なんですか…?」
「い、いや、ちょっと離れといた方がーー。」
「なぁ、少し…聞いてほしんだけどさ。烏野は数年前までは、県内ではトップを争えるチームだった。一度だけだが、全国へも行った。でも今は、よくて県ベスト8。特別弱くも強くもない。他校からの呼び名は『落ちた強豪 飛べない烏』」
澤村は、あの日みた映像と興奮を思い出す。
いつもすれ違う高校生が、全国の舞台で猛者と戦う姿を。
鳥肌が立ったことを。
そして、力強く宣言する。
「もう一度あそこへ行く。」
澤村の声に驚いたのだろうか。
体育館前にいた烏が、春高へと道を示すかのように空へ飛び立つ。
その姿に、誰もが息を飲んだ。
本気さが、痛いほど伝わる。
その本気が、依流の首を絞める。
(詠流も、目指していた目標…。私なんかがいていいのかな…。)
そんな迷いをよそに、澤村は二人をつまみ出し氷のような般若の形相で続ける。
「その為には、チーム一丸とならなきゃいけない…。どんなに優秀な選手だろうが、一生懸命でやる気のある新入生だろうが…。仲間割れした挙句、チームに迷惑をかけるような奴はいらない。」
ぴしゃりと、入り口のドアが閉められる。
「互いが、チームメイトだって自覚するまで部活には一切参加させない。」
波乱の部活の幕開けが、より一層依流の不安を掻き立てる。