第1章 消えたのも 託された思い*
何気ない毎日は、いつまでもは続かず突然終わりを告げる。
そんなことを、身を以て思い知るとは微塵も思っていなかった。
あの日は、寒い冬の透き通るような青空が朱色に染まり始める時刻のこと。
いつも通りの学校の帰り道。
彼と並び白い吐息を漏らしながら、春に想いを馳せていた。
「いよいよ、受験になるね。」
自然と漏れた言葉に、彼は少し寂しそうな顔をした。
「あぁ、こんな風に一緒に帰るのもあと少しだな。」
彼の名は、神川詠流(かみかわよる)。
漆黒のショートカットの先は、凍り始め時々私の頬に当たる。
「すごいね、詠流は。県外の学校に進むんだよね。なんだっけ…。えっと…。」
「いいかげんに覚えなよ。本当に、物覚えが悪いなぁ依流(いる)は。『烏野高校』だよ。」
「あっ、そうだったっ。バレーがやりたかったんだよね。私は、スポーツ苦手だからなぁ。」
「本当に、運動音痴だよなぁ。バレーじゃ、サーブは届かないしなぁ。同じ双子なのにやっぱ、二卵性だからか??」
詠流は今日の体育を思い出し、バカにしたように笑う。
「だって…。むぅ…。」
「早く自分のやりたいこと、見つけろよ?依流は、演技は上手だから女優か?」
私の兄は、そう言って口角を上げ乱暴に頭を撫でた。
私達は、いつも一緒に過ごしていた。