第2章 風間蒼也という人は(風間蒼也)
例4。
最近風間さんが飯を奢ってくれるようになった。
ていうか、週一ペースで飯食いに行くぞと強要され、今に至る。
「風間さん、今日こそは自分の分は自分で払わせてください。つーかもう折れてください」
「どうせ金も持たずろくに食っていないんだろ?遠慮はするな」
「最近風間さんと飯食いに行く、尚且つ奢られるからメッチャ目立ってるんすよ。目立つの困るからホントに勘弁してください」
あたしとしては、目立つのは非常に困る。ボーダーに匿ってもらってんだから。
あまり認知されないようにコソコソ活動するつもりだったのに、A級の、しかもお堅い風間さんと一緒にいる機会が増えて、めちゃめちゃ目立ちまくっていた。
流石にそれはマズイ。つーか面倒くさい。
「じゃあ密会するか?」
「それじゃあもっと目立つマジ困ります」
というか、何考えてるんだこの人は。
「ならば、どうすればいい」
「つーか、風間さんは何をしたいんすか?」
もう風間さんの意図が分からん。初めから分かってないが、最近もっと分からん。そう思って、聞いてみてしまった。
「………名前は」
「はい」
「名前は、この世界にいる期間が長くないから、他人と関わろうとしないようにしていた」
「そうっすよ。無駄に仲良くしても、後で別れる時が辛いっすもん。そんなの面倒だし、ならば、いっそのこと関わらない方が楽かなーと思って」
現に今まで、そういう事があった。
あたしは神だから時間という概念がないし、任務で他の世界に行って仲良くなっても、あたしが再びその世界に行った時はみんなもう知らない人。
あたしだけ、変わらないまま。
もうやなんだよな。そんな思いすんのは。
そんなあたしの思考を知ってか知らずか、「それでも」と風間さんは続ける。
「名前が最終的に、『この世界に来て良かった』と思って欲しかった。良い思い出もないまま帰ってほしくない、そう思った」
単なる俺の我儘だがな、と言い、風間さんはストロー付きの牛乳を飲んだ。
何この人。ちょー良い人じゃん。
神か?あ、神はあたしか。
そんな考え方もあるのか、と思いながら、あたしも目の前にあるお茶を口に含んだ。
風間蒼也という人は、予想以上に良い人だった。
END