第2章 風間蒼也という人は(風間蒼也)
例1。
あたしがこっちの世界に来たばかりの頃だ。
あたしは、自分の(神としての)任務の為にこの世界にやって来た。
任務の都合上、ボーダー隊員という肩書きがあった方が、一般市民に見られてしまった場合に都合がいいと考えて、ボーダーに匿ってもらう事を決めた。
『ボーダーに匿ってもらう代わりに、三門市以外に出現した近界民は全部受け持ってやる』と。
それからあたしはS級隊員としてボーダーに入る訳だが、そりゃあいきなり近界民でもない異世界人に交渉されても納得がいかない訳で。
暫く、A級隊員が交代であたしを監視する事になった。
初めは太刀川隊、次に三輪隊、そして次に、風間隊が監視していた。
太刀川隊はテキトーだったし、三輪隊は(特に三輪が)不審な動きがないあたしにイライラして、隊長でありながらも一抜けしていた。
そんな中だったから、風間隊の対応は驚くしかなかった。
まず、任務は「監視」であるにも関わらず、1日の監視の後、あたしに話しかけてきたのだ。
それで、どちらかというと事情聴取みたいになって、終いには飯を奢って貰った。
それだけでもスゲーと思ったのに、林藤さんから聞いた本部への報告内容は、更に驚くものだった。
「風間隊の報告では、『ボーダーに支障をきたす存在ではないどころか、ボーダーにとって大きな戦力になるだろう』との報告だったよ」
「え、そんなにっすか」
「あぁ。あ、後ね名前、もし良かったら玉狛に来ない?」
「え、何でっすか」
「いやねー、蒼也から『あいつには家がないし金もないから、支障がなければ玉狛に入れてもらえないだろうか』って言われたんだよ。あ、これは俺だけしか知らないから。安心していいよ」
確かにあたしは、家がない(というか、亜空間に作った自分の部屋に住んでいる)し、長くこっちの世界にいる訳じゃねーし金は不要だと思ってるから金もない。
その辺を本部に報告すると、下手したらあたしが実験材料になってしまうだろう(時空弄れるし、瞬間移動どころか、時空移動も出来るからな。今更な気もするが)。
それを風間さんが配慮して本部には伝えず、近界民に優しい玉狛支部長の林藤さんに言ったのだろう。
だが、結局あたしは断ったがな。