第3章 一目惚れの概念とは
「おい、サッチ。冥界の人魚って知ってるか?」
気分よく酒を飲んでいた男にそう問われ、俺は首を横に振った。男はさらに酒を仰ぎながら、話を続ける。
「こんなに霧の濃い日になぁ、突然、歌声が聞こえて来るんだ。そして、次の瞬間!急に船が揺れたかと思うと、バーン!と空高く船ごと投げられる」
空になった酒瓶を、男が投げた。
クルクルと酒瓶は回り、重力に従い甲板へ向かう。そしてガチャン!寂しい音を立てて、粉々に砕け散った。
「そして最後はこんな風に、海に叩きつけられて、みんな死んじまうのさ」
「人魚、出てこねぇじゃん」
「それがいるんだよ!空から落ちてくる時、海を見んだろ?そこにひょこりと顔を出してんのさ。美しい、人魚がよ……」
「ふ〜ん……」
興味無さ気に返事を返しているが、実は内心ドキドキしまくっている。あ、別に怖いわけじゃないからな!ただ今の状況とさっきの話が、あまりにも似ているから……。そう、思った瞬間。
突然聞こえてきた歌声に、俺は息を飲んだ。
「な、なぁ、これって……」
「冥界の、人魚……?」
グラリ。急に船が揺れ、凄まじい音を立てて、船ごと天空へと舞い上がった。
船に乗っていた男たちが叫び声を上げて、船にしがみ付く。だかそれも虚しく、俺たちは重力に従い海へと落ちて行った。