第11章 狂気
「………時間、ないぞ?出来てるのか?」
光瑠の言葉に、やがてコクリと頷く柚姫。
「分かっています。私とお兄様は、同じ夢…予知夢を見ました。もう、時間がありません。もう………避けられない……。」
柚姫は、弱々しくそして悲しい瞳を浮かべていた。そんな柚姫の頭を優しく撫でる光瑠の瞳もどこか寂しそうだった。
「もう、お兄様なんて呼ばなくていい。王政を終わらす。いや、消す。必要ないんだ。ただ、リーダーが必要なだけだ。」
「いえ……。今は、そう呼ばせて頂きます。あの人達に出会えて良かったです。本当に………。」
光瑠は、今でも消えそうな声でそうだな…と呟いていた。やがて、柚姫の頭から手を離す。腰に掛けている刀をキチ…と強く握り締める光瑠。
「アイツらを送るのは明日だ。賢次と洸汰には、街人達の避難をさせている。どうやら、お前の術が効いて無事に移動しているみたいだ。」
「それは何よりです。あの場所は、突然変異の姿はなく、のどかな場所です。とても平和な場所です。」
柚姫は、立ち上がり刀を握り締め真剣な瞳へと変え光瑠を見る。
「お兄様、共に守りましょう。この思い出の場所を…。」
「………あぁ、神禮一族に賭けて。この地を、絶対に。この身が砕かれても守り抜く。」
柚姫と光瑠はお互いに誓いの言葉を発する。この2人の会話は、黒子達には一切伝わらない。わざと知らせないのだ。
バレてしまえば、全てが失敗へと導いてしまうと、2人は恐れていた。それは、黒子達が無事に元の世界へと帰すまでは、知らせないのだ。