第2章 そんなの要らないから早くして
クスクス。喉を震わせる音がした。
声の主であるアンは、悪どい笑みを浮かべながら、ベッドに腰掛けている。その目の前でマルコが自身を扱っていた。
涙目になりながら、マルコはアンを見る。こうして自慰を見られるのは、なんだかとてもゾクゾクする。けれど、足りない。見ているだけじゃなくて、もっと痛いこと、シて欲しい―――。
「っあ、アン……。こんなんじゃ、イけねぇよい」
「マルコは痛くしてもらわないとイけないの?とんだ変態さんね。……でもダメ。気持ち良かったら、お仕置きになんないもん」
だからほら、さっさと続きしなよ。笑いながら言うアンに、思わず涙が溢れた。それでもマルコは、手を必死に動かし続ける。身体が熱くなっているのに、その熱を逃せないのが酷くもどかしい。
しばらくして、マルコは手を休めた。血管が浮き出たペニスは痙攣し、透明な体液を先端から垂らしている。なんといやらしいことか。アンはまた喉を鳴らした。
「お願いだい、アン。このままじゃぁ俺、可笑しくなるよい」
「えー、どうしようかな……」
涙目で訴えるマルコに、さぞ楽しそうにアンは言った。
ベッドから降りて、マルコの前で跪く。
珍しい光景だな。この場に誰かいれば、そう言われるだろう。
「私はまだ楽しみたいけど。マルコ頑張って言うこと聞いてくれから、特別ご褒美あげる」
「あっ‼︎」
ビクリ!マルコの身体が跳ねた。
あのアンが、自ら進んでマルコ自身を咥えている。ペニスに纏わり付く舌の動きも、先に当たる喉の動きも、全てが気持ちいい。しかし達せるかと聞かれれば、イけそうになかった。そう、思った時。
声にならない痛みに、マルコは慄いた。
ガリガリ、と。アンの歯が動いているのがわかる。それは触れるなどと優しいものではなく、皮膚を裂き、肉を潰す、噛みちぎる勢いがあった。
「つ、ぐ……。あぐぅ……!」
「あははっ!マルコったら、本当変態だね」
ペロリ。赤い血と白濁が付いた唇を舐めながら、アンは言う。
焦点が合っていない瞳で、マルコがアンを見る。アンは静かにマルコに近付くと、耳元で優しく囁いた。
「ねぇ、もう1回する?」