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闇の底から

第7章 トラップ?トリップ?


「じゃあ乾杯っ」
渉の掛け声でメンバーはグラスを合わせた。そう、打ち上げなのである。
「もう幸せー!!」ピザやバゲットをハイスピードで消費する凜を見て弥生が絶句。バリバリ音がしてるという呟きに北尾がツボにはまり、渉はパスタに夢中である。そんな中瑞季は一人悶々としていた。
英語に直せばlet it goの一部になるエルサの歌にはまり込んで、自覚してしまったのである。暗い性格のせいで損をした小学生時代。最初は良くてもだんだんと人が去っていった中学生時代。ただひたすらにもがいた高校生時代。人を好きになった一回生。東條渉が農学部からまさかの学士入学で叶った再会、バンドメンバーに誘われた喜び、歌うことの高揚感。甲状腺を患い敢え無くしたキーボードへの転向。凜との因縁。玲との関係。隠し通せ隠し通せ。余計なことをすればばれる。私はエルサだ。
ミネストローネを啜る。渉先輩が選んだだけあって内装がお洒落で料理が美味しいお店なのに味がしない。
スプーンを持つ手が震える。
シンデレラのウインクが蘇る。
あんたは何処まで付きまとう?幻影で終わってくれない。3Dで迫らないで…お願いだから私から離れてよ近づかないで思い出しちゃうから。

「え、合宿あるんですか?」
明太のりバゲットなるものを咀嚼する合間に凜は渉に質問を繰り出していた。
「そうだよー。毎年どっかの体育館借りて一週間やるの。冬にでかい大会あるからそれに備えてな。また何やりたいか提案してくれ。」
「花火もやるぜ、夏だし。本当は海でも行けたらいいんだろうけどさ」
「あんたは女子の水着見たいだけだろ北尾っ」
弥生の鋭い指摘に悪びれずまあな、と笑い北尾はパスタに戻った。
「今年は楽しくなりそうだねー。氷の女王は魔法が解けてただの女の子ってことがすごい勢いで広まってるし」
「やーっと世間様のご理解をいただけたってことかー。いやー長かった。」
カルボナーラを巻きながら凜は溜息をつく。
「わかってないな。今日のアナで株急上昇中の相楽さんよ。告白地獄が待ってるぜきっと。こんな奴の何処が良いんだかあらゆる奴に聞いて回りたいレベルで。」
「ほんとそうですよね、やっぱり渉先輩腹立つけどたまにすっごくまともでびっくりしました」
がっちり握手を交わすかに見えたが凜がその手を引っ込めて、してやったりと笑った。
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