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闇の底から

第2章 失われた記憶


4月 この辺りの桜は早く、小学校の入学式に花が咲き誇るベストな状態だったことはない。
大学入学で初めて桜に間に合った。養父母を何とか説得して2年次からのキャンパスの近くの学生アパートのような場所で一人暮らしを始めた。
この辺りには冗談だろ、というくらい何もなくて服が欲しいとなると電車で出かけることになる。
大学生になるんだし、と帰りに見かけた駅の雑貨とコスメの店で化粧品一式を揃えた。

駅前の鶏肉専門店で焼き鳥を買って上機嫌で歩いていると
「ねぇちゃん、俺と遊ばね?」
出たよ、無差別ナンパ野郎…と思って無視してスタスタ歩く。
ちょ、待てよナンパじゃないって凜!!
という声が聞こえて振り返る。

幼馴染の宗馬だった。
「へぇ、あんたがいひゃねぇ(医者)患者さん怒鳴りつけてそー」
焼き鳥をいつの間にか奪われ、カリカリしていた私は真正面に来た宗馬の顔に気付かなかった。
「今年のS大倍率高かったろ?俺も受かると思わなかったし。」
思考かフリーズした。俺も?って…えええ!!!
ポカンと開いた口に宗馬が焼き鳥の串を入れる。
炭火焼きの香ばしいカリッとした鶏肉とネギが口の中を占拠して何も言えない。
「てなわけでよろしくな、隣人さんよ。」

どうやら面倒な幼馴染とは離れられない6年間になりそうな予感がして自分でも気付かないうちにため息が漏れた。
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