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闇の底から

第2章 失われた記憶


「じゃあ凜ちゃんは春からS大生でお医者さんのタマゴってことなのねー!!」巡回に来てくれた看護師さんと、隣のベッドのおばあさんにとても驚かれた。
「えんらいことめんこいにいちゃんもおったなあ…宝塚の男役ばりの別嬪さん連れてまあどこの芸能人か思うたわーサインもろときゃよかったかもなぁ」とおばあさん。
「はーい、誰のサインですかーー?」
颯爽とヒールを鳴らしながら登場したのは昨日のラフな格好とは打って変わってオトナを感じさせるスーツを身に纏った玲さんと東條先生だった。
「おおーようきたねぇ、さあさ煎餅食べるかぇ?」
ありがたくいただきます、と玲さんが受け取るのを見ながら先生がベッドに腰掛けた。
「家帰るか。俺と玲もついて行くし。」
そこまでこの熱々な二人に甘えていいのか?と何度も遠慮したが最終的には押し切られる形で同行してもらうことになった。

電車で1時間半、長いような短いような時間を経て到着した家は静まり返っていた。
鍵を開けて入るが人の気配がまったくない。玲さんは何が珍しいのかはわからないがはしゃぎながらサイドボードや飾り棚を見ている。
「あきら!このエリア、凜ちゃんのお宝写真だよー!」どれどれ?と後をついて行く東條先生に一つ釘を刺してから次々と扉を開ける。

両親の寝室の扉を開けた。

扉を開けて視界に入ってきたのは一人目の弟の遺影と

新たに加えられたであろう家族全員分の遺影と位牌だった。

動悸がうるさい。耳が内部から壊れそう。鼓膜までドクドクという振動が響き渡り、近所中にまで音が漏れ出ているのではないかという錯覚さえ覚える。

カタカタカタカタと音が鳴る。歯の根が合わない。

寒い寒い寒い寒い誰か誰か…でも一体誰がなんで、どうして

私じゃなくて家族の命を奪ったの?
ねえ?夢なら覚めてよ。闇の底からひたひたと何かが近づいてくる気配がただただ怖い。

うわあああああああ、と自分でもびっくりするくらい子どもっぽい泣き声と涙がこみ上げる。
音にびっくりして駆けつけた2人は黙って私を抱きしめてくれた。
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