第2章 シリーズⅡアポフィライト①
「モリ先輩? そっちじゃないですよ?」
ハルちゃんの差す方向とは違う方に向かっていく。
「こっちにいる」
と野性の勘を発揮し、自分を信じて進んでいく。
「ちょっ、一緒に行きますって! まっ」
ハルちゃん達に少し離れてついていくと、葉に邪魔されて上手く進めないハルちゃんを呼び、ひょいと抱き上げるとあたしがいる後ろを一度も振り返ることなく、葉を掻き分けて行ってしまった。
「たかし……」
行ってしまった。崇に置いていかれた。
もう姿は見えないのに、あの広い背中を掴もうと手が勝手に伸び、足も自然と一歩進む。
その瞬間頬に痛みが軽く走った。
きっと葉で切ってしまったんだろう。
滲み出て頬を伝う血を拭うこともせず、あたしは崇が行ってしまった方をずっと見ていた。
ずっと一緒に居たのに。傍に居たのに、急に崇が遠くなったように感じて、リゾートの中は暑いのにとても寒く感じた。
伸ばしたままの手がだらんと落ち、一瞬だけ俯いてすぐに顔を上げた。
「きょーくん」
「どうしたんですか、アサヒせんぱ……」
電話をしていたきょーくんは通話が丁度終わったらしく、あたしの名前を呼びながら振り返るけど、最後まで言葉が紡がれることはなかった。
「あぁ、葉で切れてしまったんですね」
怪我の原因をすぐに理解したきょーくんは、ポケットからハンカチを取り出し血を拭いていく。
「ごめん」
「何を今更謝っているんですか。あなた達の面倒なんてもう慣れましたよ」
「あたし、今日もう帰る。ちょっと一人になりたい。ありがとね。勝手でごめん」
口を開き何か言おうとしているきょーくんに、もうこれ以上話す気はないと背を向け、リゾートを後にした。
その夜、崇からの電話をあたしは初めて無視した。