第3章 ゆびきり
「半兵衛様。」
「なんだい?」
す、と僕の眼前に差し出された小指。
意図がわからず、彼女を見つめた。
「ゆびきり、でございます。」
「ゆびきり……?」
「半兵衛様も、同盟を結ばれる時にこうなさるのでしょう?」
彼女が真面目な顔でそんなことをいうものだから、笑ってしまった。
「まさか。
ゆびきりはしないさ。
武人同士が約束するときは、署名なんだよ。」
「署名……。」
「そう。
僕が戦に出ている時、何度か君に文を書いただろう?
その文末に、僕の名前が書いてあったはずだ。
それが、署名。」
「では、ゆびきりは約束の証にならないのですか?」
「今ここで君と署名を交換しあうのも……うん。」
きゅ、と彼女の小指に僕の小指を結びつけた。
「僕らの証はこれだ。」
誰かと小指を絡めてゆびきりをするなんて何年ぶりだろう。
おそらく子供の時以来だ。
絡み合った小指を見て、彼女が無邪気に目を細める。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら、針千本飲ます。」
彼女が小さな声で歌う。
針千本なんて、恐ろしい。
そんな恐ろしいことしなくちゃならないなら、こんな幸せな約束破らないさ。