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【ヘタリア】周波数0325【APH】

第6章 走り出せ!







「はぁっ……はぁっ!」

もう筋が逝くというまで走った。

途中細い路地裏に入ったのもあるのだろう。

追っ手は見えない。

呼吸が苦しく、胸をかきむしる。

熱っぽさと頭痛でふらふらした。ムチャをしたようだ。意識を保っているのがやっとだった。

ラジオをつけるあの瞬間までは元気だったのに、一体どうして……。

耐えきれず、私は近くのベンチに座った。

「はぁ……」

呼吸がもとのリズムをとり戻すと、あらためてあたりを見渡した。

付近にお店もある小さな広場だ。人通りは少ない。

こんなに明るいのに、閉まっている店もある。外国はよくわからないなあ。

すぐ近くにある彫像を見上げた。

慈愛の微笑を浮かべた女神像だ。亀裂がところどころ入っているせいで、怒っているようにも見えた。

「……これからどうしよう」

ここはイギリスらしいことに泣きたくなる。日本からはほど遠い。

「おとなしく捕まっておくべきだった? いや、それは……――」





不意に、思考が途切れた。

全身の毛が逆立つ。

冷え冷えとしたものが、体の中心に沈みこむ。

この感覚を私は知っている。

――地震だ。

「っ!」

最初の微かな揺れは消え、いっきに体が揺さぶられた。

紙袋を胸にかかえ、ベンチから立って地面に伏せようとする。

けれど、体に力が入らない。インフルエンザのときのように節々が痛む。

「きゃっ」

立ちあがったはいいが、バランスを崩し倒れてしまった。

地面に這いつくばるような姿勢になる。

紙袋が手から離れた。

揺れはおさまらないばかりか、逆に強まっていく。

それに従うかのように、意識がもうろうとしてくる。どうして、なんでよ……

悔しさに空を仰ぐ。けれど、目に入ってきたのは青ではなく、

「――そんな」





彫像の、凍りついた笑みだった。
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