第6章 走り出せ!
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「うぅ……っ」
一瞬か数時間かわからないが、意識が飛んだ。
二度目だが、一生慣れそうにもない。
吐き気が胸を縦横無尽に走り回っている。
それだけではなかった。
さっきまでフルマラソンでもできそうな健康体だったのに、今はひどく熱っぽい。これも二度目だ。一体どうしたことやら。
「はぁ……。
――っ!?」
息が止まる。
ため息が氷結して、喉から心臓が飛び出しかける。
なぜなら、顔をあげた目の前に
「…………」
すばらしく可憐な笑みで黒い物質を運ぶ、英国紳士がいたからだ。
――目が、あった。
「お邪魔しましたあああああああああああああああっ!!」
「!? ちょ、お前っ! ちょっと待て!!」
脱兎のごとく走り出す。彼はスコーンの皿を持っているから走れまい。
なぜ移動先が本田宅ではなくカークランド宅なのか? なぜ私を知っている口振りなのか? なぜ実物のアーサーはあんなに可愛いのか? んなこたどうだっていいっ! まずはあのスコーンから逃げることが、最・優・先事項だ!!