第6章 走り出せ!
「わからんなー」
時刻は21時半。
夕食入浴と主要なイベントを終え、私は机で本にかじりついてた。
「電磁気、磁気、電磁場、磁場……なにが違うのよもー!」
本の内容自体は易しい。
しかし用語や数式がでてくると頭が痛い。
というか、こんなことしてなにか意味があるのだろうか?
私は物言わないラジオを見つめた。
グレーの小型ラジオ。
スピーカーとなる無数の黒い穴に見つめられているようで、なんだか落ち着かない。
……もし、
喉がひきついて、息をのむ。
もしまたラジオをつけたら、
「どうなるの……?」
さっきは運良く帰れた。
でもそんな、原因もなにもかもが不明なラッキー(?)が続くのか?
机の脇の真新しい紙袋から、浴衣と湯のみが顔を覗かせている。
日本のスキルの一つ、過剰包装を施したそれをしばらく睨んでいた。
『まぁ……最近おかしなことばかりですから。別世界からの訪問者が現れても、おかしくないのかもしれません』
そう力無く笑った菊が、頭をよぎる。
「……」
いつの間に、私は立ち上がって着替えていた。
お気に入りのワンピースを手に取る。
黒を基調としたクラシカルなデザインが非常に可愛い、いざという時の服だ。
なんといっても、なんといっても、腰のベルトがコルセットのごとくしっかりしている。この重要さを、私以上に感じている者などいるまい。
借りた本はまた別の袋に入れ、紙袋に忍ばせた。THE・過剰包装。
「これでアッサリ行けなかったら――」
私は笑うぞ。
ラジオを掴み上げる。
電源をつける。カチッとした音を、確かに耳にする。
瞬間、
「ッ!!」
いつかのように、私は耳鳴りと酩酊感の海に放り込まれた。