第35章 第一部 エピローグ/夕明かりの先へ
「それと、あの場所には行くなよ」
「ゴーストタウンのこと?」
「うまくは言えねえけど、なんか、あそこは――」
言いよどみ、ロヴィーノは言葉を探す。
フェリシアーノは彼の手に自分の手をかさねた。
ぴくりと弱々しい反応を返す手を、安心させるように。
「わかった。大丈夫、いざとなればルートに隠れる」
冗談めかしたように笑ってみせる。
あの場所でのことについて、彼がなにか隠しているのはわかっていた。
誰にも言っていないようで、フェリシアーノも尋ねないでいた。
ロヴィーノはそれ以上言葉を続けなかった。
フェリシアーノが聞かないでいるのを、気づいているのだろうか。
「……フェリシアーノ」
「なに?」
「あのな、全部終わったら、お前に……」
「うん」
ロヴィーノの声が小さくなっていく。
彼の緑色の瞳を閉ざそうと、目蓋が重くなっていく。
時計の針は、もう“そのとき”をさしていた。
「つぎ起きたとき……お前に……だから……」
「うん……」
「だから……絶対に……」
「……うん……」
とぎれとぎれだった声が、やがて静かになった。
からっぽな静寂が、室内に満ちる。
閉じられた目蓋と安らかな表情は、見慣れた寝顔そのものだった。
ほんとうに、ただ、眠っているような。