第35章 第一部 エピローグ/夕明かりの先へ
「――料理、作ってくれるんだよね?」
自分の声が震えているのがわかった。
頬をつたう温かいものが、手の甲にぽつりとおちる。
「俺、すごく楽しみだよ――」
なにも知らなかったようにびっくりしよう。
気持ち悪がられるくらいべた褒めしよう。
それで――たぶん、泣いてしまうだろう。
「……俺、がんばるから……」
外はもう、宵闇に包まれようとしていた。
夕陽の残照が緩やかに消えていく。
うつむいた顔は、涙でくしゃくしゃになっていた。
起きてよ、と泣きじゃくってしまいたかった。
けれど、涙に声がつまって、喉の奥からは嗚咽しか出ないだろう。
涙で熱を持った目をぎゅっとつむった。
ひとつ息を吐いて、目をひらきながら顔をあげる。
涙が滲んだまま、むりやりフェリシアーノは微笑んでみせる。
「待ってて、兄ちゃん」
その言葉に応えるように。
手からつたわるぬくもりを、確かめるように。
フェリシアーノが重ねた手が、かすかに動いた気がした。
「周波数0325」第一部・完