第34章 昏睡による覚醒より
「その脳波も、既知の脳波の周波数どれにも当てはまらず、発生原因も不明です。
おそらく、現代の医学が解明していない領域――
“異変”にまつわるものでしょう」
“異変”というワードに、フェリちゃんの肩が小さく跳ねるのが見えた。
それはほとんど、現状解決不可能であることを意味する。
でも、そんな絶望、くそくらえだ。
私はもう一度あの空間へ行き、イオンなる人物とロヴィのそっくりさんからいろいろ聞き出し、異変解決を前進させてみせる。
私にはきっと、それができる。
「――それだけなら、まだいいのです」
そんな思考が、医師の言葉で遮られる。
「問題は、その脳波を打ち消すことのできる“なにか”が、30分前発生したということです」
いっそう硬さを増した医師の声が、静まりかえる病室に響いた。
誰もが医師の言葉に聞き入っていた。
「この脳波を便宜的にx波と呼びます。
私ははじめ、x波は電磁波的作用によるものと考えていました。
彼の状態を簡単に言うと、正常な人が、覚醒を常に抑制されているようなものです。
覚醒させず、昏睡させるなんらかの要因が、脳波にx波となって現れています。
例えるなら、電波妨害機器のそばにある携帯、でしょうか。
正常な機能を保持した携帯であっても、機器のせいで、通信ができなくなる、というような」
わかるでしょうか、というふうに医師は私たちを見まわした。
医師の言うところはつまり――
なんらかの要因が、本当は正常なロヴィーノを昏睡させている。
その要因は、脳波でx波となって現れる。
しかし30分前に、x波を妨害する“なにか”が現れた。
x波が妨害され=覚醒を抑圧するx波が妨害され、ロヴィーノは目を覚ました。
――といったところだろうか。